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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)470号 決定 1976年8月27日

昭和五一年(ラ)第四六九号及び同第九九号事件

抗告人

安部哲治郎

右昭和五一年(ラ)四六九号事件

代理人

伊藤喬紳

昭和五一年(ラ)第四七〇号事件

抗告人

高橋博

右代理人

伊藤喬紳

主文

昭和五一年(ラ)条四六九号事件抗告人安部哲治郎及び昭和五一年(ラ)四七〇号事件抗告人高橋博の各抗告を却下する。

昭和五一年(ラ)第四九九号事件抗告人安部哲治郎の抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一昭和五一年(ラ)第四九九号事件

(1)  抗告人は、昭和五一年六月一二日付の「不動産競売手続に関する異議申立書」と題する書面を昭和五一年六月一三日原裁判所に提出したが、同書面で抗告人の主張するところは原競売裁判所の競売手続は競売法二七条二項所定の通知を欠いたまま進行したから同法三二条二項で準用する民事訴訟法六七二条一号の事由に該当するので本件競落は許さるべきでないというにあつて、同書面が本件競落許可決定が言い渡された後であつてこれに対する即時抗告提起期間内に提出されているところからみて、同書面は本件競落可決定に対して抗告を提起する趣旨と解すべきところ、抗告人の不服の理由とするところは、別紙に記載したとおりである。

(2)  そこで、抗告人の不服の理由について判断するに

(イ)  抗告人は、本件競落許可決定の基本となる競売期日については抗告人に何らの通知なくして競売手続をすすめた結果なされたものであつて、競売法二七条二項の規定に違反し、これが違反は競売法三二条二項で準用する民事訴訟法六七二条一号がいう執行を続行すべからざる事由に該当する、と主張するところ、競売法二七条二項は「競売ノ期日ハ競売手続ノ利害関係人ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス」と規定し、競売期日については利害関係人に対して通知を発することによつてその後の競売手続をすすめることができるものであつて、これが通知はかならずしも被通知人に到達しなければその後の競売手続をすすめることができないものではないが、この通知を発すべき利害関係人の住所は競売手続上被通知人の住所と認むべき合理的な住所にあててなされれば足るものと解すべきところ、抗告人に対する本件競売手続上の各通知につき一件記録について調べてみると、本件競売申立書において債務者兼物件所有者である抗告人の住所は「東京都調布市若葉町一丁目一番地四七」と表示され、本件不動産競売手続開始決定正本も抗告人に右住所あてに送達され、その後昭和五一年三月四日に行なわるべき不動産競売期日の通知書も抗告人に対し同年二月四日書留郵便で通知がなされ、同郵便は配達不能で返却されていないこと、本件競落許可決定の基本となる昭和五一年六月三日の不動産競売期日の通知書も同年五月六日抗告人に対し前記住所あて書留郵便で発送された(同通知書を同封した封筒には「調布市若葉町一―一―四七」と抗告人の宛所を記載しているが、これが記載は前記住所を表示したものと認められるし、経験則上これが表示をもつて前記住所に配達されることを期待するに十分である。)ところ、配達局においてこれが書留郵便物を配達すべく右住所に臨んだところ抗告人が不在のためその受領するところとはならず、同局で保管中のところ所定の保管期間が経過したので同月一八日原競売裁判所に還付された事実が認められる。右の事実によると、原競売裁判所が抗告人に対してなした昭和五一年六月三日の不動産競売期日の通知は、他に抗告人の住所と認むべき資料がない以上、前記住所に対して発したことをもつて競売法二七条二項の規定に違反したものということはできない。なお、競売手続上の通知を受けた利害関係人がその後住所を変更した等該通知が当該利害関係人に到達することができなくなるときは、当該利害関係人においてあらためて住所を届け出ることを要し、このような届出をしないで、自己に通知がなされなかつたことを理由に競売手続の違法を主張することはできない。したがつて、この点に関する抗告人の主張は理由がない。

(ロ)  次に、抗告人は、競落人は競落物件を抗告人に対し金三〇〇〇万円で買い取るよう申し入れているが、これは競売法三二条二項で準用する民事訴訟法六七二条二号の事由に該当する、と主張するけれども、その主張の事実を認めるに足る資料がないばかりか、競落人が競落不動産を債務者あるいは競売不動産所有者に売却すること及び売却価額が競落価額を上廻つたとしても右法条に該当するものではないから、この点に関する抗告人の主張も理由がない。

(ハ)  さらに、抗告人は、競落人に不法の点がありこれが理由についてはおつて提出するというけれども、いまにいたるもその提出がないのでこれが理由を知ることはできない。そこで、一件記録を調べてみても、競売法三二条二項で準用する民事訴訟法六八一条二項三項六七二条各号に該当する事由があるとは認められないし、そのほか、原決定にはこれを取り消すに足る違法の点はみあたらない。

(3)  したがつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。

二昭和五一年(ラ)第四六九号事件

本件抗告は、昭和五一年六月一五日、「即時抗告の申立書」と題する書面を当該裁判所に提出して、本件競落許可決定に対し却時抗告を提起するものであるが、抗告人の本件競落許可決定に対する抗告は、これよりさき前示のように昭和五一年六月一三日に「不動産競売手続に関する異議申立書」と題する書面を原裁判所に提出してすでになされているものであるから、本件抗告は右の抗告に重複してなされたものであつて、その不服の利益を欠き、不適法なものというべく、これが欠缺は補正することはできないから、その却下を免がれない。

三昭和五一年(ラ)第四七〇号事件

競売法による競売手続における競落許可決定に対して抗告をもつて不服を申し立てることができる者は、競売法二七条四項所定の利害関係人並びに競落人及び競買人に限る(競売法三二条二項で準用する民事訴訟法六八〇条一項二項)ところ、抗告人は右のいずれにも該当しないことは一件記録上明らかである。もつとも、昭和四八年一〇月九日付抵当権設定金銭消費貸借契約証書(記録六丁ないし九丁)によると、抗告人は債務者安部哲治郎の連帯保証人として署名押印しているが、競売法二七条四項二号の「債務者」とは、競売申立書に債務者として表示された者をいう(大審院大正五年一二月一六日決定大審院民事判決録二二輯二四二四頁参照)のであつて、抗告人は本件競売申立書に債務者として表示されたものでないから右にいう「債務者」にあたらない。したがつて、本件抗告は不適法であつて、その欠缺は補正することはできないから、これが却下を免がれない。

四よつて、昭和五一年(ラ)第四六九号事件抗告人安部哲治郎及び昭和五一年(ラ)第四七〇号事件抗告人高橋博の各抗告を却下し、昭和五一年(ラ)第四九九号事件抗告人安部哲治郎の抗告を棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のように決定する。

(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

別紙 不動産競売手続に関する異議申立書〈省略〉

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